卒業後の就労

~ 事例一覧 ~
~医療法人社団 仁誠会~
今回は、事務長、各現場担当者にお話を伺いました。

1.障がい者雇用の経緯
 元々、身体障がいの方を中心に雇用をしていたという経緯があります。腎臓内科のクリニックがあることもあり、若くして人工透析をしている方で、安定してくると社会復帰が可能な方を約30年前から雇用していました。そのような下地があり、今後、様々な障がい種の方を雇用していきたいと思っていた折に、特別支援学校の先生や福祉事業所の方から実習のご相談をいただきました。
 雇用を検討するに当たって、医療行為があるクリニックの方での受け入れは、体制が整うまでは難しいと考え、まずは、介護施設の方で雇用を進めることにしました。知的障がいの方に利用者の方々の生活支援をしていただくことで、施設内に豊かな関わりが生まれるのではないかと考え、まずは実習からスタートし、雇用に繋げることができました。

2.障がい者雇用の取り組み
<自分の出来る仕事で精一杯働くDさん>
 Dさんは、初めての知的障がいのある方の雇用だったので,時間をかけてでも、しっかりと障がいのある方を受け入れる体制を作っていこうと取り組みました。
①少し頑張れば出来ることからスタート
 まず、フロアでDさんの出来ることと出来ないことを洗い出しました。そして、コップ洗いや台拭き等の出来る業務からお願いすることにしました。しかし、必ずしも私たちの意図した通りにはいかないこともあり、現場では戸惑いの声も挙がりました。そこで、ジョブコーチやご家庭にアドバイスをいただきながら、一つ一つの業務を確実に身につけていただけるよう、指示の出し方を見直しました。例えば、コップに洗い残しがあった時は、実際に汚れたコップを見ながら、どこに洗い残しがあるか、どのように洗えば汚れがきちんと取れるのかを説明し、その都度、振り返りをするよう全職員で徹底しました。また、タイムスケジュールを作成し、Dさんと職員で常に状況が確認できるよう工夫しました。
 現在も少し頑張れば出来ること、まだ時間がかかりそうなことを見極めながら、まずは少し頑張れば出来ることをお任せして、Dさんが無理なく、新たな業務にもチャレンジできるように進めています。
②利用者さんと関わりを深めて
 Dさんは様々なスポーツの競技会に出場し、メダルを獲ってこられるので、利用者さん向けに報告会を行うようになりました。Dさんに関する記事が掲載されている新聞を皆で共有することで話題も増え、現場全体の雰囲気が和やかになり、互いに豊かな関わりが生まれています。今後もコミュニケーションの場を大切にし、Dさんにとって新たな学びや自信の獲得に繋がる職場になるよう努めていきたいです。

<さりげないサポートを受けながら働くEさん>
 Eさんは、性格的にも優しく穏やかで、支援学校の実習当初から皆に親しまれるような方でした。そのことが、ご自身の励みとなり、介護の仕事に興味を持たれ、入職されることになりました。
①さりげないサポート体制作り
 Eさんは「困っていることはありませんか」と尋ねると、本当は困っていることがあっても「大丈夫です」と言われるので、私たち職員が適宜、仕事内容を確認するよう心掛け、無理をされていないか見守るようにしています。また、いつでも相談ができるように現場の教育担当を決めました。わからないことはその都度、確認していただき、現場でお一人にならないよう気をつけています。現在は、環境整備やバイタル測定、送迎の同乗、入浴補助等、多岐に渡る仕事をお願いしています。排せつ誘導の業務では自信もついてこられた様子で、トイレコールが鳴ると率先して行ってくださいます。
②今後のキャリアアップを目指して
 今後は、資格取得の手助けもしていきたいと考えています。また、支援学校の後輩が実習に来ることもあり、先輩として、後輩を指導する場面も増えてくるとも思います。
 指導に時間を要することを考えると、現場は職域を広げていくことに消極的になりがちですが、今はまだ出来ないことにもチャレンジしていっていただき、今後は、Eさんのキャリアアップを職員全体で積極的にサポートしていきたいと考えています。

<自分の得意なことを発揮して働くFさん>
 Fさんは、支援学校高等部2年生の時から、複数回実習を重ね、赤とんぼ黒髪へ入職されました。実習を繰り返し行っていただいたことで、職員もFさんの障がいを理解し、一職員として関わることができるようになっていきました。今では、職員同士が互いに気遣う雰囲気が生まれています。
①本人の出来ることを業務として
 Fさんの出来ることや得意なことを発揮して働いていただくため、現在、湯飲み洗いや台ふき、昼食の下膳・おやつ準備、お茶出し、体操の見本やレクリエーション補助を担当していただいています。特に体操の見本やレクリエーション補助では、持ち前の明るさから、率先して場を盛り上げてくださり、皆から可愛がられる存在です。
 当初、仕事のやり残しがあったため、ジョブコーチと相談して「仕事のチェック表」を作成したり、お茶出しの手順が分かるように「お茶出しマニュアル」を作成したりしたことで、確実に仕事ができるようになってこられました。
②得意なことで利用者さんに喜んでもらえるように
 入職から1年が経ち、Fさんはピアノが得意ということもあって、新たに趣味の講座で月1回、ピアノ演奏をしていただく機会を設けました。自分で利用者さんが好きそうな曲を考え、演奏してくれています。利用者さんにとって、とても楽しみな時間になっています。Fさんの前向きにチャレンジされている姿から、職員全員が多くのことを学ばせていただいています。
 
3.サポート企業・団体の認定を受けて
 平成28年度に熊本市障がい者サポート企業・団体の認定を受けました。今年度、知的障がいの方の雇用を始めて約3年になりました。お一人お一人の様々な障がい特性に合わせて、常に支援の在り方や現場の体制作りを模索してきました。そのことが、障がいの有無に関わらず、誰もが生き生きと働くことができる職場環境の素地を築いていると感じています。
 また、サポート企業の認定を受けたことで、職場内の障がいに関する理解・啓発に繋がるとともに、他の企業の障がい者雇用促進に繋がればと考えています。

4.働いている方のインタビュー
<Dさん>
 職場に迷惑がかからないよう、責任を持って仕事に取り組むようにしています。コップを洗う時は、利用者さんが病気をされないよう洗い残しに気をつけています。
 今後の目標は、「赤とんぼ」で仕事を続けていくことです。利用者さんが自分の頑張りを褒めてくださることが嬉しいです。皆さんに褒められた時は、これからも仕事を頑張って続けていきたいという気持ちになります。
<Eさん>
 利用者さんも職場の皆さんも、とても優しく働きやすい職場です。利用者さんから、「ありがとう」、「助かったよ」と声をかけていただくと、とても嬉しい気持ちになります。利用者さんのトイレ介助の際、まだ、うまく言葉掛けができないことがあります。今後の目標は、もっと経験を積んで、先輩スタッフのようにうまく言葉掛けができるようになることです。
<Fさん>
 仕事では、利用者さんの体調を一番に考え、何か困っていることがあれば、すぐに駆けつけるように心掛けています。今後の目標は、趣味の講座のピアノ演奏で、もっと楽しんでいただけるよう曲目を増やしたいです。また、お茶出しの一連の流れを任せてもらえるように頑張りたいです。大好きな利用者さんたちに長生きしていただきたいです。

~取材を終えて~
 新たに知的障がいのある方を雇用される際、事務長より職員の方々に『できないことが前提でがなく、どのような手立てがあれば克服していけるのか。また、仕事を続けていただくにはどのような体制作りが必要が必要が、随時、検討していきましょう。』という言葉掛けがあったとお聞きしました。この考え方に基づき、障がいのある職員の方々が、貴重な戦力として活躍されている姿が印象的でした。ここで障がい者雇用における成功の秘訣があると感じました。 

熊本市障がい者自立支援協議会就労部会編集「しごといくvol.7」(平成31年1月発行)より 
※一部加筆・修正しています。
~国立大学法人熊本大学「愛Work」の取組 ジョブコーチモデルでの障がい者雇用 ~
今回は、主に人事課の担当者及びジョブコーチ*の方々にお話を伺いました。

1.障がい者雇用の経緯について
 平成22年の障害者雇用状況報告(障害者雇用促進法)による障害者雇用率未達成だった状況と、教育学部附属特別支援学校(以下附属特別支援学校)生徒たちの卒業後の進路先として寄与する観点より、学内で障害者雇用検討推進ワーキンググループを発足させ、平成23年4月に、本学と附属特別支援学校が連携して「熊本大学愛Work(以下愛Work)」が発足しました。
 当初は、附属特別支援学校の卒業生5名のメンバーと2名のジョブコーチでスタートしました。現在、13名の知的障がいのあるメンバー(全て附属特別支援学校の卒業生)が働いており、2名のジョブコーチと事務補佐員1名でメンバーの支援にあたっています。

2.雇用管理について
<業務選定について>
 愛Workスタート当初は、まず、附属特別支援学校エリアの清掃業者委託を解除し、その業務を担うことを中心に始めました。現在では、教育学部や文法学部をはじめとした学内の清掃業務(トイレ・講義室・廊下・階段の清掃、ゴミ収集、自転車整理等)や事務業務(シュレッダーかけ、古紙回収、封入・製本・タッグシール貼り等)に取り組んでいます。
 学内の業務開拓をする上では、まず、愛Workの紹介や業務内容を「すぐにできる」「少し練習するとできる」「習得までに時間はかかるができる」に分けた一覧表を掲載したパンフレットを各部署へ配付し、学内業務の洗い出しを行いました。今では、愛Workの仕事が学内に口コミで拡がり、各部署から直接依頼を受けることも多くなってきています。

<環境配慮について>
 教育学部の敷地内に愛Workの事務所があり、そこがメンバーの拠点となっています。9:00~16:00(1時間休憩)の勤務時間で、必要に応じて、ジョブコーチの支援を受けながら働いています
①一日の日程表作成
 学内の様々な業務をこなすため、メンバー一人一人の日程表を作成しています。メンバーそれぞれの業務の得意・不得意を考慮しながら業務内容や量に応じて作成するようにしています。ただし、できるだけ様々な業務を経験し、全員がどの業務もできるようなるように配慮しています。メンバーたちは、毎日、朝礼で自分の業務内容やスケジュールを確認して、必要な道具の準備し、現場に向かっています。
②作業環境の工夫
 トイレ清掃においては、工程が細かく多いため、当初は、やり残しや重複がないように写真入りの手順書を用意していました。今では、手順も覚え、必要に応じて見直し・修正を行っています。また、講義室の清掃では、机を均一に並べるための色カードや机間の長さの棒等を用意し、メンバーが自分たちで業務に確実に取り組むことができるよう工夫を行っています。
③業務日誌による振り返りの実施
 毎日、終礼前に、業務日誌を記入し、一日の業務について振り返りができるようにしています。日誌には、どのようなことに注意して清掃を行ったか等の良かった点や反省点を記入することで、タイムリーにジョブコーチがアドバイスをすることができています。

<業務遂行について>
 愛Workでは、チームで業務にあたることが多くあります。チームでは、「声かけ」を意識し、誰がどのような動きをして、それぞれの工程を誰が担当しているかをお互いに把握することを大事にしています。そうすることによって、汚れ残しが減ったり、重複する動きが少なくなり、スムーズに業務に取り組むことができています。
 また、チーム内では、それぞれの得意なことを生かした役割分担をしています。隅々のホコリやゴミを誰よりも正確に見つけて取り除くことができたり、机並べの際に前後左右を確認をすることが得意だったり、それぞれの得意分野を生かすことで、業務の効率化が図られています。
 
3.職場定着について
 定期的にメンバーの面談を行っています。その際は、仕事面だけでなく、生活面や健康面についても話題に上げています。面談後は、それぞれが自分の目標設定を行い、ステップアップを目指しています。
 メンバーたちは、家庭生活の状況が仕事に影響するケースがあります。そのため、職場での様子や家庭での様子に関する情報共有を図るため、連絡帳や電話等で保護者の方と情報のやりとりを行っています。
 また、定期的に研修会の機会を設けています。清掃スキル向上をはじめ、挨拶等のコミュニケーション、衛生面、健康維持等に関する内容を取り扱っています。
 他にも、スタート会や忘年会、休日にボウリング等をジョブコーチのサポートを受けながら計画し、メンバーたちが自分たちで企画・運営できるようにしています。業務外のイベントを計画することで、仕事に対する意欲も高まっています。
 愛Workがスタートして7年目に入り、一人一人が確実にスキルアップしているとともに、メンタル面も成長していると感じています。

4.障がい者雇用後の学内の変化について
 まだ、本学全体への周知の問題はありますが、学内の職員や学生の意識も変わってきているように感じています。メンバーたちが一生懸命に業務に取り組む姿を見て、優しく声をかけてくれる職員や学生が増えてきました。
 また、附属特別支援学校の生徒たちにとっても身近な働く先輩たちの存在は、とても影響が大きいと思います。生徒さんたちが体験実習に来た際は、メンバーが生徒さんたちに仕事の手順や方法を指導するようにしています。後輩たちを指導することで、自分たちの業務を振り返るとともに、自信を深めることに繋がっています。
 愛Workの取り組みが認められ、学内の様々な方々から「ありがとう」「助かっています」等の感謝の言葉を掛けられることが多くなってきました。今後もメンバーたちの仕事ぶりが評価され、学内での存在意義を高めていけるよう努力していきたいと思います。ジョブコーチが年に数回、「愛Work便り」を発行し、学内に配付して広報活動を行っています。今後もジョブコーチの役割として、積極的に各部署への啓発や環境づくりを行っていきたいと思っています。

5.愛Workメンバーの感想~就職7年目のCさん~
 最初の頃は、まだ慣れずに不安なこともありましたが、そのような時にジョブコーチが相談にのってくださり、安心して仕事ができるようになりました。時間内にたくさんの講義室の清掃をする必要がありますが、ジョブコーチが手順や方法を一緒に考えてくださり、うまくやれるようになってきました。これからも正確で丁寧な仕事を心掛けたいと思います。
 これから、愛Workのみんなで協力して、もっと大学の皆さんに認められるように頑張っていきたいです。

~取材を終えて~
 熊本大学が取り組んでいる「ジョブコーチモデル」による障がい者雇用スタイルは、障がいの程度にかかわらず、障がいのある方々が職場の「戦力」として、就労する可能性を秘めていると感じました。
 メンバーの皆さんが必要に応じてジョブコーチの支援を受けながら、自分の仕事に自信を持ち、愛WORKの職員としての誇りを持って仕事に取り組まれている姿がとても印象的でした。
 今後、熊本大学の障がい者雇用スタイルが他大学や他機関(県・市など)及び民間企業に応用され、障がいの程度にかかわらず、「働きたい」気持ちのある障がいのある方々の就労機会が広がっていくことに期待しています。
*国の制度に基づく職場適応援助者(ジョブコーチ)とは異なり、大学で独自に雇用している支援スタッフをジョブコーチと呼んでいます。
 
熊本市障がい者自立支援協議会就労部会編集「しごといくvol.6」(平成30年3月発行)より 
※一部加筆・修正しています。
~老人介護施設『黒髪しょうぶ苑』 特別支援学校高等部卒業後、支援機関のサポートを受けながら働くAさん ~
今回は、苑長様にお話を伺いました。

1. 障がい者雇用の経緯
 平成23年に初めて、隣の熊本大学教育学部附属特別支援学校から高等部2年生の現場実習を受け入れました。その後も生徒さんたちの現場実習や職場見学・体験等を受け入れてきました。これらの実習の受け入れをきっかけとして、当苑の夏祭りへの出店参加等、支援学校との繋がりが生まれました。そのような中で、当苑としても障がい者雇用の必要性を感じ始め、Bさんが高等部3年生の時に、3回の現場実習を行い、平成26年4月から雇用がスタート しました。

2. 雇用管理について
<障がいの理解について>
 採用当初は、高齢者福祉に関しては知識がありましたが、障がい者福祉については分からないことが多く、当苑職員もどのようにBさんに対応してよいのか分からない状況でした。そのため、支援学校や障害者職業センターのジョブコーチの方々と情報交換をさせていただきながら、Bさんの障がいへの理解を深めていきました。そこで得られた情報は、文書で全職員へ周知し、職員全体で情報を共有して、Bさんをサポートできるように努めています。

<環境配慮について>
 勤務時間は、入社時に本人と相談し、体調面を配慮して、9:00~15:00の5時間勤務で働いてもらっています。また、Bさんがいつでも相談できるようキーマンとなる職員を決めています。困った時に相談できる職員を決めておくことが、安心して働くことに繋がっています。必要に応じて、私(苑長)もいつでも相談を受け られる体制をとっています。
<業務選定について>
 業務としては、苑内の清掃業務を中心に働いてもらっています。当初は、3階の有料老人ホームのフロアと居室、4階トイレ・更衣室、階段の清掃でしたが、その後、ゴミステーションの清掃等も追加で取り組めるようになりました。このゴミステーションの清掃は、Bさんが自分で時間を見て、タイミングを考えながら取り組んでいます。仕事を任されることがAさんの自信に繋がっています。現在は時間内に業務を終えることができるようになってきたので、更なるステップアップとして、業務の追加を検討しています。

<業務遂行について>
 当苑にとって、初めての障がい者雇用でしたので、支援学校やジョブコーチの方々に助言をいただきな がら、指示の出し方や声のかけ方を考えて対応しています。職員によって指示の出し方が変わることで、Bさんが戸惑わないよう、全職員で統一できるように配慮しています。 Bさんは、声かけ次第で、モチベーションが上がったり、下がったりすることがあるので、日頃からプラスの声かけ(「頑張ってるね」「お疲れ様です」「ありがとうございます」等)をするように心掛けています。まだ現在は、職員に一つ一つ確認しながら業務に取り組むことが多いので、今後はできるだけ本人の判断に任せていきたいと思っています。しかし、Bさんが悩んだ時は、いつでも相談できるように、キーマンの職員だけではなく、どの職員も対応できるようにしていきたいと思います。

3.職場定着について
 Bさんは、利用者様や職員の入れ替わりや、利用者様への対応の仕方等、職場において不安なことが起きると、体調不良を訴えたり、休みが多くなったりすることがあります。そのような場合は必要に応じて、支援学校、ジョブコーチの方々、ご家族とケース会議を行い、早期に解決ができるようにしています。Bさんは支援学校を卒業し、社会人になられたばかりなので、ご家族と連携して、必要な配慮を確認した上で、 社会人としての心構え等の指導も行っています。4者が同じスタンスで支援することが、本人の成長に繋がっていると思います。また、定期的にフォーマルな個人面談を開き、不安なことはないか本人の悩みを確認するようにしています。Bさんが悩みを溜め込んで不安にならなくて済むよう一緒に手立てを考え、一つ一つ解決していっています。本人の悩みへの対応は、「対応マニュアル」として整理し、本人がマニュアルを見ながら自分で不安や悩みを解決できるようにしています。今後は、面談をとおして、Bさんの気持ちを整理するだけではなく、当苑がBさんに期待することもしっかり伝えていきたいと思います。そして、これからも当苑の一戦力とし て頑張ってほしいと思っています。

4.障がい者雇用後の職場内の変化
 Bさんが働き始め1年半が過ぎましたが、みんなでBさんを支えていく雰囲気が形成され、苑内が明るくなり、職員一人一人が優しくなったように思います。また、障がいの有無にかかわらず、一人の当苑職員として接することができるようになっています。Bさんは 利用者様から、「ありがとう」と言われることが嬉しいそうです。Bさんの仕事ぶりに対して、利用者の皆様もとても感謝されています 職員全員が障がいについて同じ考えでない部分も ありますが、Bさんの働きぶりをとおして、少しずつ障がいというバリアを取り払っていけたらと思います。

5.Bさんと現場職員の方より
<Bさんより>
 仕事は、とても大変です。特に、利用者様に迷惑がかからないように掃除をするのが大変です。利用者様 がいらっしゃるときは、「後から掃除します」と自分から声をかけるように頑張っています。利用者様と話すことが楽しいです。「ありがとう」「きれいだね」と言われると、とても嬉しいです。 現在、トイレ掃除は自信があります。これからも頑張りたいです。また、もっと自分から挨拶ができるように頑張りたいです。今後は、やれる仕事をもっと増やして、しょうぶ苑のためにバリバリ働きたいと思います。 将来は、給料でたくさんオシャレをしたり、買い物をしたりしたいです。支援学校の後輩には、学校で挨拶や体力づくりを頑張ってほしいと思います。
<現場職員の方より>
 これまでは、一つの業務が終わる度に、職員に報告に来られていましたが、現在では自分で状況を判断して、職員が不在でも自分の仕事を理解し、清掃ができるようになってきています。Bさんの成長をとても感じています。ぜひ、自分の夢に向かって、清掃業務以外の仕事にもチャレンジできるように次のステップを目指していってほしいと思います。私たちもBさんの次のステップを応援していきたいと思います。また、隣に支援学校があり、これから後輩も現場実習に来ることが増えてくると思うので、先輩として頑張っている姿を後輩に見せてほしいと思います。

~取材を終えて~
 今回の取材をとおして、支援学校卒業後、Bさんが 就職され、職場で働きながら、日々社会人として一歩 一歩成長されている姿を感じることができました。Bさんの成長を黒髪しょうぶ苑の苑長様をはじめ、職員 の方々が、さりげなく温かくサポートされている姿が 印象的でした。 また、各支援機関やご家族と連携しながら、Bさん の必要に応じたサポート体制が整えられており、それ を全職員で共有されていることが、Bさんの安定した 働きや働き続けることに繋がっていると感じました。


熊本市障がい者自立支援協議会就労部会編集「しごといくvol.4」(平成28年2月発行)より 
※一部加筆・修正しています。
~日本マクドナルド株式会社フランチャイジー 有限会社ゆくたけ マクドナルド北熊本店~
今回は、オーナー様、総務担当者様、現場担当者様、Aさんの4名にお話を伺いました。

1.障がい者雇用の経緯
 これまでも学校とは、職場見学や職場体験等で繋がりがありました。また、ドナルドの病院訪問等で障がいのある子どもさんと関わっていく中で、働く場を提供できればよいなと感じていました。そのような中、2年程前に特別支援学校からの雇用を前提とした現場実習の依頼があり、受け入れることになりました。障がい者雇用に関しての不安はありましたが、職場内に細部にきめ細やかな支援が出来るクルー(現担当者)がおり、今なら雇用できる体制にあるのではないかと思い、雇用することにしました。現在は、別の店舗でも1名雇用しています。また、現在も支援学校、訓練校(現、高等技術専門校)、就労移行支援事業所等からの障がいのある方の実習を各店舗え受け入れています。
 障がい者雇用に関しては、当初、不安や怖さがありましたが、Aさんと出会えたことでその不安は軽減され、障がい者雇用のハードルが下がりました。弊社で障がい者雇用を推進していく上で、Aさんが最初のモデルとなるような体制作りを心掛けました。
 まず、「実習計画書」を作成し、今までの通常のアルバイト学生よりも、きめ細かなスケジュールを作成し、それに沿って仕事を進めていくようにしました。また、一日の「目標」と「振り返り」を丁寧に毎日行うようにしました。初めのうちは毎日、何度も同じことを繰り返し取り組むようにして、職場内で情報共有することで、担当者だけではなく、他のクルーも支援が出来るように進めました。仕事中だけでなく、休憩時間もAさんとの会話を増やして、身近な存在になれるように心掛けました。そのことで、Aさんが分からないことがある場合は、すぐにクルーへ質問ができるくらいの関係を築き上げることができました。障がい者雇用を進めていく上では、職場内のリーダー(現担当者)の存在が大きかったと思います。

2.雇用管理について
 Aさんの勤務時間は10:00~17:00の6時間勤務です。これは、現場の担当者のスタッフと同じ勤務時間に調整してあります。毎日、欠勤や遅刻をすることもなく、路線バスを乗り換えて通勤されています。
 まずは、Aさんの業務内容を考える上で、Aさんの強みがどこで一番発揮できるかを考え、カウンター、厨房、フロア等、各ポジションを全て経験してもらいました。その結果、現在は、資材の補充、清掃、洗い物、ハンバーガー類の製造等で働いてもらっています。業務のやり方や職場環境を特別に配慮するのではなく、どこでも業務がこなせるようになってほしいと思い、他のクルーと同じ業務に取り組んでもらっています。今では他のクルーと同じ業務をこなすことができるようになっています。
 当初は、休憩時間を担当者と同じにしました。また、昼食時はお客様が多くなるので、あえてピーク時に休憩を取ってもううように配慮しました。忙しい土日に休みを入れ、平日は一つのポジションに集中して取り組んでもらいました。今では、お客様の多い時間帯や、土日もシフトに入ってもらっています。

3.職場定着について
 今ではAさんは弊社で必要な存在にまで成長しています。職場のみんながチームとして声を掛け合い、Aさんをサポートすることで職場に定着ができたのだと思います。また、職場のみんながAさんに声を掛け合うことで弊社の「チーム力」が更に強くなりました。Aさんも「みんなが見てくれている」という安心感からどんどん仕事を覚え、楽しんで仕事に取り組んでくれています。また、できた時には、大げさなくらいに、みんなで褒めることを大切にしています。
 現在では、毎日、担当者に「明日も頑張りましょう」とメールを送ってくれるほど関係作りができています。先月、従業員間で一番頑張った人の投票を行い、MVC(その月で最も頑張ったクルーに贈られる賞)に選出され、組織の中でも認められています。また、Aさん本人にとっても仕事をとおした経験が財産になったのではないかと、仲間からも声が上がっています。

4.支援機関等との連携について
 弊社にとって初めての障がい者雇用であり、当初は不安がありました。しかし、現場実習時に特別支援学校からいただいた個人票がとても詳細に記入してあったことで、どのような接し方をすればよいのかが分かり、大変助かりました。事業所側が障がいのある方を知るために、ぜひ、支援機関でしっかりと障がいのある方の情報収集(アセスメント)をしていただき、それを事業所に正確に伝えていただきたいと思います。弊社では、Aさんの情報を詳細に教えていただいたおかげで、職場内での障がい理解もスムーズにできたと思います。また、特別支援学校の先生が様子を見に来てくださるのでAさんも安心して仕事ができています。
 Aさんの保護者とも連携し、本人の様子を伝えるなどして、情報の共有を心掛けています。みんなでAさんのことを温かく見守ることができていると思います。

~取材を終えて~
 取材中、Aさんは1年半働いた感想として「幼い頃からマクドナルドで働くことが夢でした」今は、フライヤーの仕事が一番楽しいです、仕事が楽しいです」と話されていました。「毎日働けることが嬉しい」という気持ちが伝わってきました。
 今回の取材では、障がい者雇用を進めていく上で大切なこととして、「障がいのある方の情報を支援機関が確実に事業所に伝えること」、「障がい者受け入れのための職場のリーダーの存在」、「職場のチームで障がいのある方を支えること」を学ぶことができました。

熊本市障がい者自立支援協議会就労部会編集「しごといくvol.2」(平成26年2月発行)より 
※一部加筆・修正しています。

 

~ 支援機関の紹介 ~
ハローワーク(障がい者相談部門)
職業相談を行い、仕事の紹介をします。
事業所に対して障がいのある方の雇用の相談を行います。

障害者職業センター(熊本障害者職業センター)
□障がいのある方に
職業評価・職業相談、職業準備支援、ジョブコーチ支援、リワーク支援を通して、就職・職場定着、職場復帰の支援を行います。
□事業所の方に
障がいのある方の雇い入れ、雇用継続、職場復帰に関する相談、情報提供、援助を行います。
障害者就業・生活支援センター(くまもと障がい者ワーク・ライフサポートセンター縁)
「はたらきたい」おもいを実現するために必要な、就業とそれに伴う生活 に関わるサービスや機関の情報提供や案内を行います(働く前の準備から 求職活動の応援、定着支援を行います)。
*このセンターで支援を行うスタッフを「就業支援ワーカー」と言います。

個人情報保護に関して
Copyright © KP5000 & Human To Human LLC. All Rights Reserved.